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「パーキンソン病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

「パーキンソン病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回はパーキンソン病について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。

パーキンソン病の基礎知識

パーキンソン病は、中脳の黒質にあるドパミン産生細胞が徐々に減少する神経変性疾患です。1817年イギリスのジェームズ・パーキンソンにより初めて報告されました。加齢は主要な危険因子で、60歳を超えると罹患率が増加します。罹患率は人口10万人あたり約150人です1)

パーキンソン病の4大症状

パーキンソン病には4つの代表的な運動症状があります。安静時振戦、固縮、無動、姿勢反射障害です。

安静時振戦

安静時の振戦は左右非対称で、逆N字型(またはN字型)に進行します(図1)。例えば、右手→右足→左手→左足という順番で振戦が起これば、逆N字型進行です。

図1 逆N字型・N字型進行

逆N字型・N字型進⾏

固縮

体幹や手足がこわばります。上肢に歯車現象、下肢に鉛管様固縮を認めます。

無動

無表情となり、素早く動くことが困難になってしまう症状です。字を書くと次第に字が小さくなります(小字症)。歩行は前かがみで、最初の一歩を踏み出すことが難しく(すくみ足)、歩幅が小さくなったり(小刻み歩行)、歩行スピードは次第に速くなったり(加速歩行)、停止が困難になったりします(前方突進現象)。また、腕の振りが減少し、方向転換が難しくなるといった症状もみられます。

姿勢反射障害

体が傾いたときに姿勢を立て直すことができなくなり、転倒しやすくなります。

訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント

パーキンソン症状(パーキンソニズム)は非常によく遭遇します。身体所見の評価ポイントを復習しておきましょう。

  • 顔の表情が乏しくなります(仮面様顔貌)。
  • 嚥下しないため、唾液がこぼれます。
  • ベッドで斜めに寝る、斜めに体を傾けて座ります(斜め徴候)。
  • 眉間を繰り返し叩打したとき、瞬目が持続します(マイアーソン徴候)。
  • 歩行時に前傾姿勢、すくみ足、小刻み、すり足、前方突進現象、腕をふらないといった症状がみられます。
  • 方向転換ではまるで銅像が回転するようにぎこちなく回ります。狭い場所での方向転換が困難となるため、トイレの使用が非常に難しくなります。
  • 手を叩いてリズムをつけたり、床に一定の間隔で線を引いたりすると歩きやすくなります。
  • 上肢を肘関節で屈曲させると、歯車を回転させるときのようなカクカクとした抵抗を認めます(歯車現象)。
  • 下肢を膝関節で屈曲や伸展させると、鉛管のような硬さを感じます(鉛管様固縮)。

非運動症状にも注意

上記の運動症状が出現する数年前から非運動症状が出ることも知られるようになりました。早期診断の観点からも非運動症状も知っておくとよいでしょう。

  • 嗅覚の低下(コーヒーや石けんの臭いが分からなければ疑う)
  • 便秘
  • うつ症状
  • 起立性低血圧
  • 不眠や日中の過眠
  • むずむず脚症候群(脚がむずむずしてじっとしていられなくなます)
  • REM(rapid eye movement)睡眠行動障害(睡眠中に大声で叫んだり、隣に寝ている人を殴ったり、壁を蹴るなど)

パーキンソン症候群とは

パーキンソニズムは、パーキンソン症候群と呼ばれるパーキンソン病以外の疾患でも起こります。パーキンソン症候群には以下の疾患があります。

  • 薬剤性パーキンソニズム
    向精神病薬(抗精神病薬、抗うつ薬)、消化性潰瘍薬(スルピリド)、制吐薬(メトクロプラミド、ドンペリドン)がよく問題になります。高齢者では常用量でも、しばらく飲んでいるとパーキンソニズムを起こしてくるため注意が必要です。

  • 脳血管障害性パーキンソニズム
    脳梗塞や脳出血が原因のパーキンソニズムで、下肢の固縮が強く、開脚で「逆ハの字」歩行(図2)となります。

  • 正常圧水頭症
    軽い認知症、歩行障害、尿失禁が特徴です。正常圧水頭症の歩行も開脚で「逆ハの字」となります。

  • 神経変性疾患
    レビー小体型認知症や進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、大脳皮質基底核変性症があります。

図2 パーキンソン病と脳血管障害性パーキンソニズムおよび正常圧水頭症の歩行の違い


パーキンソン病と脳⾎管障害性パーキンソニズムおよび正常圧⽔頭症の歩⾏の違い
脳血管障害性パーキンソニズムと正常圧水頭症では、開脚歩行で「逆ハの字」となるのが特徴です。

安静時振戦なし、左右対称の振戦、進行が早い、早期から転倒を繰り返す、治療薬(L-ドパ製剤)に反応が乏しい場合は、パーキンソン病ではなくパーキンソン症候群の可能性が高いです。

診断

パーキンソン病の診断は厚生労働省の診断基準に基づいて行われます2)

<診断基準>

以下の診断基準を満たすものを対象とする。(Probableは対象としない。)
1.パーキンソニズムがある。※1
2.脳CT又はMRIに特異的異常がない。※2
3.パーキンソニズムを起こす薬物・毒物への曝露がない。
4.抗パーキンソン病薬にてパーキンソニズムに改善がみられる。※3
以上4項目を満たした場合、パーキンソン病と診断する(Definite)。

なお、1、2、3は満たすが、薬物反応を未検討の症例は、パーキンソン病疑い症例(Probable)とする。

※1.パーキンソニズムの定義は、次のいずれかに該当する場合とする。
(1)典型的な左右差のある安静時振戦(静止時振戦:4~6Hz)がある。
(2)歯車様強剛、動作緩慢(運動緩慢)、姿勢反射障害(姿勢保持障害)のうち2つ以上が存在する。
※2.脳CT又はMRIにおける特異的異常とは、多発脳梗塞、被殻萎縮、脳幹萎縮、著明な脳室拡大、著明な大脳萎縮など他の原因によるパーキンソニズムであることを明らかに示す所見の存在をいう。
※3.薬物に対する反応はできるだけドパミンアゴニストまたはL-dopa 製剤により判定することが望ましい。
文献2)より引用

治療

パーキンソン病の進行を遅らせる薬はありません。ドパミンの前駆物質であるL-ドパ製剤を中心としたドパミン補充療法が行われます。L-ドパ製剤は脳の中でドパミンに変換されて効果を出しますが、病気が進行すると効果持続時間が短くなります。副作用として嘔気があります。

若い患者にはドパミン受容体刺激薬(ドパミンアゴニスト)が用いられます。副作用で突発性睡眠や眠気、欲望が抑えられない症状が発現することがあります。最終的にはすべての患者にL-ドパ製剤が処方されることが一般的です。

REM睡眠行動障害は、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症に合併することが多いです。クロナゼパムが著効します。

最新トピックス
パーキンソン症状が進行した場合、脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)と呼ばれる手術療法が行われることがあります。DBSとは、脳内に留置した電極と前胸部に埋め込んだ刺激発生装置を接続し、脳内の標的部位に弱い電気刺激を行うことで症状を改善する治療法です3)


キーポイント

●パーキンソン病には4つの代表的な症状(安静時振戦、固縮、無動、姿勢反射障害)があります。
●運動症状がでる数年前から非運動症状(嗅覚低下、便秘、うつ症状、起立性低血圧)が起こります。
●安静時振戦なし、左右対称の振戦、進行が早い、早期から転倒を繰り返す、治療薬(L-ドパ製剤)に反応が乏しい場合は、パーキンソン病ではなくパーキンソン症候群を疑います。


執筆:山中 克郎
福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問
 医師 山中 克郎
1985年 名古屋大学医学部卒業
名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。

編集:株式会社照林社

【引用文献】
1)一般社団法人日本神経学会:パーキンソン病 疫学.
https://www.neurology-jp.org/public/disease/parkinson_detail.html
2024/12/13閲覧
2)難病情報センター:パーキンソン病 診断基準.
https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/upload_files/File/006-202404-kijyun.pdf
2024/12/13閲覧
3)横浜市立大学附属市民総合医療センター:パーキンソン病治療〜世界で初!アダプティブDBS機能を使用した当院のDBS治療の取り組み〜 Part 2.2024/09/06.YouTube.
https://youtu.be/2v5mI–3AIQ?si=-AuVhhB5IU9mMOQT
(横浜市立大学附属市民総合医療センター:パーキンソン病治療〜世界で初!アダプティブDBS機能を使用した当院のDBS治療の取り組み〜.2024.
https://www.yokohama-cu.ac.jp/urahp/medical/medicalnews/parkinson.html
2024/12/13閲覧)

【参考文献】
○上田剛士編著:パーキンソン症候群.高齢者診療で身体診察を強力な武器にするためのエビデンス,シーニュ,東京,2014:101-115.
○鈴木則宏:神経診察クローズアップ 正しい病巣診断のコツ 改訂第2版.メジカルビュー社,東京,2015.




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